◆第70回(DXを成果に変える第一歩 ― 「何をやるか」より「どう決めるか」)

1. はじめに
DXの話題になると、多くの企業で次のような議論が交わされます。
- 「どのツールを入れるべきか」
- 「どの業務から変えるべきか」
- 「ROIはどれくらい見込めるのか」
もちろん、これらは重要な問いです。
しかし私は、これまで多くの企業のDXに関わる中で、もっと根本的な違いが成否を分けていると感じています。
それは、「何をやるか」よりも、「どう決めているか」という点です。
2. DXが失敗する組織の共通点
成果が出ないDXには、驚くほど共通点があります。
- テーマ選定はトップダウンで突然決まる
- 現場の実態が十分に考慮されない
- 決定理由が「流行っているから」「競合がやっているから」
- 途中で現場の反発が起き、形骸化する
このとき現場から聞こえてくるのは、こんな声です。
- 「やる意味は分かる。でも、正直ピンとこない」
- 「現場の制約を全然分かっていない」
- 「また“やらされ仕事”が増えただけ」
DXが止まる原因は、技術不足でも、スキル不足でもありません。
決め方そのものに問題があるのです。

3. 成果を出す組織は「決め方」が違う
一方、DXで成果を出している組織を観察すると、まったく違う景色が見えます。
- テーマは現場課題から生まれる
- 仮説を立て、小さく試し、振り返る
- 途中で軌道修正することを前提にしている
- 「なぜそれをやるのか」が常に語られる
<図>

つまり、施策の中身より、意思決定のプロセスが違うのです。
ここで重要なのは、「正しいかどうか」ではありません。『どうやって決めたか』に納得感があるかです。
4. DXの本質は「意思決定の回路」
多くの企業は、DXを「業務のデジタル化」だと捉えています。
しかし本質は、そこではありません。
私はDXの本質を、こう捉えています。
『DXとは、意思決定のあり方をアップデートすること』
なぜなら、
- 不確実な時代に「正解」は存在しない
- 事前に完璧な計画など立てられない
- 試しながら学ぶしかない
だからこそ、
- どう仮説を立てるか
- どう試すか
- どう振り返り、次を決めるか
この意思決定の回路こそが、競争力の源泉になります。
<図>

5. 今年のテーマについて
昨年は、「なぜDXは人・組織・風土に行き着くのか」という問いを掘り下げました。
そして今年は、その問いをさらに一歩進め、「DXを成果に変える組織の条件 ― 思想から実装へ」をテーマにしていきます。
昨年が「なぜ」の解明だったとすれば、今年は「では、それをどう設計し、どう動かし、どう判断するのか」という実践の領域に踏み込みます。
6. この連載で扱うこと
今後の連載では、
- 正しいDXがなぜ止まるのか
- 動く組織はどう設計されているのか
- 現場が動き出す最初の一手
- 失敗を許すとは何か
- 経営会議は何を議論すべきか
といったテーマを、現場目線と経営目線の両方から掘り下げていきます。
DXを、
- スローガンで終わらせない
- 一過性のプロジェクトにしない
- 「また失敗した」で終わらせない
ための、実践知を共有していきます。
7. おわりに
DXは「何を導入するか」ではありません。「どう決め、どう学び、どう変わり続けるか」の問題です。
次回は、「なぜ“正しいDX”ほど失敗するのか」について掘り下げていきます。

