◆第65回(IT×組織能力=競争優位の方程式)

弊社では、IT投資と組織能力の強化を一体的に推進することで、投資効果の最大化をご支援しています。DX(デジタル・トランスフォーメーション)でいえば、Digital ではなく Transformation に軸足を置くものです。

この「IT投資の効果創出における組織能力」に関する研究は海外で盛んに行われており、代表的なものを以下に示します。

No論文名著者概要
1A Resource-Based Perspective on IT Capability and Firm PerformanceBharadwaj, A.ITそのものではなく、IT資源を活用する組織能力(IT capability)が企業パフォーマンスを高めると主張。ITを競争優位に結びつけるには、プロセス・文化・戦略との整合が不可欠(RBV視点)。
2Information Systems, Strategic Flexibility and Firm PerformanceZhang, M. J.戦略的柔軟性を媒介としてISと企業成果を分析。学習力や意思決定の柔軟性を通じて効果が発揮されると結論づける。
3Information Technology and Organizational PerformanceMelville, Kraemer & GurbaxaniIT投資の効果は、業務プロセス・人材能力・組織構造といった中間メカニズムを通じて発揮されるとする統合モデルを提示。
4Beyond the Productivity ParadoxBrynjolfsson & Hitt「ITパラドックス」を超えるには、ITと同時に組織変革(プロセス改革や分権化)を伴うことが不可欠と指摘。
5Dynamic Capabilities and Strategic ManagementTeece, Pisano & Shuen資源を統合・再構成するダイナミック・ケイパビリティが競争優位の鍵。ITと結びつくことで効果が増幅される。
6Information Technology as Competitive AdvantagePowell & Dent-MicallefIT単独では効果は限定的。人的資源や経営体制との統合活用が競争力を左右する。
7Shaping Agility through Digital OptionsSambamurthy, Bharadwaj & GroverIT投資は、「デジタル・オプション」(将来の柔軟性・対応力の基盤)を形成し、組織の俊敏性(Agility)を高める。この俊敏性こそが業績向上に寄与する中核的要素である。

これらの研究に共通する主張は以下の通りです。

  • IT単体では効果は限定的であり、組織能力との一体的活用が不可欠
  • 重要なドライバーは「学習力・柔軟性・変革力・協働体制」
  • 中間メカニズム(プロセス改革・人材開発・戦略整合性)を意識すべき

特に注目すべきは No.5「ダイナミック・ケイパビリティ」です。近年は書籍も多く出版され、広く認知されています。

定義

  • 変化する環境下で、資源を統合・再構成し、競争優位を維持する能力
  • 単なる資源の保有ではなく、変化に適応する力(ケイパビリティ)が鍵
  • 特に変化の激しい業界では、迅速かつ柔軟な再構成が必須

これは、資源の「保有」に焦点を当てる従来のRBVを補完する視点です。環境が変われば「資源を持っているだけ」では優位を維持できません。重要なのは、それをどう使いこなし、どう変化させるかです。

構成要素(Teeceら)

  • Sensing(察知):技術進展や顧客ニーズを素早く察知する能力
  • Seizing(捉える):機会を事業に変換する能力
  • Transforming(変革):資源・文化・プロセスを再構成する能力

結論として、持続的な競争優位を生み出す源泉は、学び・対応・再構築を繰り返す組織能力=ダイナミック・ケイパビリティにあるという内容です。このため、人的資源、組織構造、経営判断、組織文化が深く関与する。

 これに付随して、デジタル変革においては、ITを活かす組織能力の再構築が競争力を決定すると結論づけています。

 ここで前提となるのは、やはり組織風土です。風土に基づいた組織能力の再構築、特に「現場の再生」が重要であり、多くの日本企業に求められています。

弊社ではこの実現に向け、以前のブログでもご紹介したように、段階的ステップを踏むアプローチを推奨しています。

 IT化は単なるツール導入から出発しましたが、いまや業務・組織構造・産業構造をも変革するDXの中核となりました。さらに生成AIの進化が加わり、その影響は一層拡大しています。

これからの時代、IT投資の成否は技術そのものではなく、それを活かす組織能力に依存します。変化に柔軟かつ俊敏に対応し、再構成できる組織こそが、持続的な競争優位を築くのです。

弊社は、その実現に向けて、理論と実践の両面から伴走支援を続けてまいります。

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